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前橋地方裁判所 平成7年(ワ)131号 判決 1998年11月25日

原告

山口孝代

被告

トマトツーリストサービスこと中山淳也

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、各自、金一六八万七九九二円及び内金一四八万七九九二円に対する平成六年一一月六日から完済に至るまで年五分の割合による金銭を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

四  この判決は、右一につき仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の求めた裁判

一  被告らは原告に対し、各自、金一九〇三万三六二七円及び内金一七三三万三六二七円に対する平成六年一一月六日から完済に至るまで年五分の割合による金銭を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要及び証拠

(以下、被告トマトツーリストサービスこと中山淳也を「被告中山」と、被告武藤茂雄を「被告武藤」という。)

一  本件は、原告が、被告中山に自動車を貸与したところ、その従業員の被告武藤が運転して交通事故を起こしたことから、被告武藤に対しては不法行為(民法七〇九条)により、被告中山に対しては使用者責任(民法七一五条)により、損害金と弁護士費用を除く損害金についての遅延損害金(事故日から民法所定の率)の請求をする事案である。

二  争いない事実等

(以下、認定に使用した証拠等は括弧内に掲げる。)

1  原告は、有限会社山兼興業、料亭園などの山兼グループという企業群を経営する山口兼吉の夫であり、料亭園などで顧客送迎用として使用するため普通乗合自動車(熊谷二二や一一一〇、小型バス、以下「本件自動車」という。)を所有するもの、被告中山はトマトツーリストサービスの商号で旅行業を営むもの、被告武藤は、平成六年一一月当時、被告中山の従業員であった。

(原告に関して甲二九、証人山口正彦)

2  被告中山は、原告から、平成六年一一月、目的:観光旅行使用、使用料:一日四万円の約束で本件自動車を賃借し、同日六日、被告武藤にこれを運転させて伊勢崎市の顧客の奥只見方面の一泊二日の観光旅行に使用していた。

3  被告武藤は、平成六年一一月六日午後四時一〇分ころ、新潟県北魚沼郡湯之谷村大字上折立字湯之沢八四八番地二付近の県道小出奥只見線シルバートンネル一三号内を走行中、同所は時速三〇キロメートルに速度制限がされ、かつ路面が濡れていたのに、漫然と時速四〇キロメートルで進行し、不用意に減速した過失により、操縦及び制動不能の状況となり、本件自動車の車体をトンネルの壁に接触させて停車させる交通事故を起こした(以下「本件事故」という。事故態様につき丙一)。

右の経緯であるから、本件事故につき、被告武藤は不法行為に基づく損害賠償責任を、被告中山は使用者として同損害賠償責任をそれぞれ負担する。

三  主たる争点

本件の主たる争点は、本件事故による原告主張の損害の有無と因果関係の存否である。

(原告の主張)

本件事故により本件車両は大破し、これによる原告の損害は次のとおりであり、いずれも本件事故と因果関係がある。

1 車両損害 一二一〇万一六三五円

原告は、本件車両を平成六年二月一六日に七四九万三二五〇円で購入し、送迎用に改造するために五九八万円を掛けたところ(合計一三四七万三二五〇円)、本件事故により修理費は一二一〇万一六三五円を要する。

2 休車損害 三四〇万〇〇〇〇円

原告は、本件車両を料亭園等の送迎用に使用していたところ、本件車両は右1のとおり改造された特殊車両で、一時期捜査対象とされるなどし、その修理のために、準備期間二五日と修理期間六〇日合計八五日休車した。

右休車期間一日当たりの賃料相当損害金は五万円が相当であり、少なくとも四万円を下らない。

本件車両は自家用であって営業用ではないが、被告らは、これを承知で借り受けたものであるから、営業用でないことを理由に休車損害を争うのは信義則に反する。

3 自動車保険の保険料割増損害 六九三万四〇〇〇円

(一) 原告は、本件車両を含むその保有車両について、大東京火災海上保険株式会社(以下「大東京火災」という。)とフリート特約(一〇台以上の自動車を所有する場合、これらを対象とする損害保険契約を締結することにより保険料の割引等を受けるもの)による自動車保険契約を締結していた(以下「本件保険契約」という。)。

(二) 大東京火災は本件保険契約に基づき本件事故による損害賠償として、車両損害五五〇万円、人身損害九九万三四四四円、対物損害(トンネル設備)三二二万二九〇〇円を支払った。

(三) 本件保険契約においては、保険料は優良割引料率四〇パーセントが適用されていたところ、本件事故により割引料率が三〇パーセント削減され、これを回復するためには三年間を要し、原告はその期間の保険料増額分として次の合計六九三万四〇〇〇円の損害を被った。

一年目二九六万六〇〇〇円、二年目二五七万三〇〇〇円、三年目一三九万五〇〇〇円

4 保管料及び移動費 三九万七九九二円

5 損害合計 二二八三万三六二七円

6 損害填補(車両保険金) 五五〇万〇〇〇〇円

7 損害残金 一七三三万三六二七円

8 弁護士費用 一七〇万〇〇〇〇円

(被告らの主張)

本件事故により本件車両が大破したとの点、及び原告主張の各損害と本件事故との因果関係は争う。

1 車両損害

争う。車両損害が発生したとしても、大破して全損となったのであれば、車両時価額によるべきであり、これは保険による填補額六四〇万円を上回らない。本件車両は初年度登録から事故時までに既に営業用バスの法定耐用年数五年を超えて使用されている。また、原告の主張する車両工事費の根拠たる資料(甲四、五)は著しく信用性が乏しい。

2 休車損害

争う。本件車両は、送迎用の自家用自動車で、原告は他に多数の車両を所有していたのであるから、休車損害が発生することはない。自家用自動車を賃貸して、休車損害を請求することはできない。また、原告主張の期間休車の必要があったとは考えられないし、仮に休車損害があるとしても本件自動車の賃料相当額は日額三万円が相当である。

3 自動車保険の保険料割増損害

争う。原告は高額な使用料を収受して自家用自動車を貸与し、利益を得ていたのであるから、保険に関するリスクは自ら負担すべきである。一般に、レンタカー業者はレンタカー代金により高額な保険加入しており、これにより損害をカバーしている。高額な割増保険料を請求するのであれば、貸与時に説明すべきである。また、フリート契約の保険料は加入全車両の事故の有無等により定まるものであり、本件事故により保険料が決まるものではない。

4 保管料及び移動費

争う。

5 損害填補

原告は、本件車両保険につき保険金として六四〇万円の支払いを受けている。

6 弁護士費用

争う。

第三争点に対する判断

本件の主たる争点は、本件事故による原告主張の損害の有無と因果関係の存否であるので、以下、検討する。

一  証拠(甲一三、二六、二七、証人山口正彦(以下「正彦」という。))によれば、本件事故により本件車両は大破したものであり、原告はこれを修理することなく、新たに中古自動車(バス)を買い替えたことを認めることができる。

二  車両損害 七四九万〇〇〇〇円

1  原告は、本件車両を平成六年二月一六日に七四九万三二五〇円で購入し、送迎用に改造するために五九八万円を掛けたところ(合計一三四七万三二五〇円)、本件事故により修理費は一二一〇万一六三五円を要し、右修理費相当額が損害であると主張する。

2  前記認定のように、本件自動車は大破し、原告はこれを修理せずに買い替えたものであり、修理費相当額を損害と見ることはできず、原告の損害は本件自動車の事故当時の時価相当額であると考えられるので、以下これについて検討する。

原告が本件自動車を七四九万三二五〇円で購入したことは認めることができる(甲三、二九、証人正彦)。

しかし、改造費用については、原告は当初これを五九八万円要したと主張し、領収証及び請求書(甲四、五の1、2)を引用していたが、被告らから右請求書と本件自動車の写真との矛盾点を指摘されるや、証人正彦において、右領収証及び請求書には他の自動車の費用も含まれていたとし、本件自動車の改造費用は、一一四万九〇〇〇円であるとするに至ったものである。右の経緯からすれば、原告が、本件自動車購入時に改造を加えたことは認めることができるも、その費用一一四万九〇〇〇円については右供述等から心証を形成するに至らない。

原告は、本件自動車について大東京火災との間で大口分割の自動車総合保険に加入し、その車両保険金として保険金額一杯の六四〇万円を給付されたことを認めることができる(甲一七の2、二九、証人正彦)。

以上の点に加えて、本件自動車の初年度登録は平成元年九月であり、原告が本件自動車を購入したのは、平成六年二月であって、四年三か月経過した中古車であったこと、右購入から本件事故までも九か月経過していること(甲二~四、証人正彦)を考慮すれば、本件自動車の本件事故時点の時価は七四九万円と評価するのが相当である。

したがって、車両損害は右七四九万円となる。

三  休車損害 〇円

1  原告は、休車期間として本件自動車の修理のための準備期間二五日と修理期間六〇日を主張するが、本件自動車は大破し、原告はこれを買い替えているのであるから、買い替えに要する期間を休車期間と見るべきである(原告の主張する修理費用は右認定の本件自動車の時価より高額な一二一〇万余円である。)。原告は、本件自動車(二四人乗り。甲二)の代わりに、それより相当大きい四四人乗りの中古バスを買い受け、平成七年三月納車された(甲三〇の1、2、証人正彦)。右代替自動車の発注時期は明確ではないが、少なくとも原告の主張する八五日の休車期間はこれを肯定できよう。

2  次に、原告は、本件車両を料亭園などの送迎用に使用しており、本件自動車を使用できず、賃料相当額の損害を被ったと主張するが、原告は本件自動車を含め、バスを四台所有しており、これらを料亭園などの客の送迎に使用していたものであるところ、本件自動車が本件事故に遇った後は、他のバスを右送迎に当てていたものであり(証人正彦)、その間他の自動車を賃借したとかの事実は窺われない。してみれば、本件自動車の休車による原告の損害については、これを認めるに至らない。

なお、本件事故の際は本件自動車は有料で賃貸されていたものであること、被告は以前にも原告から数回にわたり同種車両の賃貸を受けたことがあること、また、本件事故後に、山兼グループの一社である有限会社ホーユウ観光から被告に対して、本件自動車を使用して平成六年一一月一二日、同月一三~一四日、同月二四~二五日と三回の旅行が予定されており、代替車の使用が必要であるとして、その差額一八万七八〇〇円を請求し、被告がこれを支払ったこと(乙一の1~3、五、一九、丙一、被告本人)からすれば、原告(及び山兼グループ)において、自動車の賃貸を業としていた可能性は否定できないところ、右請求及び支払いの事実に鑑みれば、休車損害はその範囲に留まり、これは填補済みと解することもできるが、原告は業として賃貸していた事実を否定し、前記料亭の送迎等を前提とする損害を主張するので、右の点については詳論しない。

四  自動車保険の保険料割増損害 〇円

1  原告は、本件車両を含むその保有車両について、大東京火災とフリート特約付きの自動車保険契約を締結しており、同契約に基づき、原告は、本件事故による保険金として、車両損害六四〇万円、人身損害九九万三四四四円、対物損害(トンネル設備)三二二万二九〇〇円の支払いを受けたものであるところ、右自動車保険契約においては、保険事故を発生させ、保険金の支払いを受けると、保険料の優良割引率等が減少することとされている(甲一七の1、2、二八、二九、三三、証人正彦)。

2  しかし、本件事故との関係においては、次の理由により原告主張の額の割引率の減少による保険料増額分が発生し、これにつき本件事故と相当因果関係ある損害と認めるに至らない。

まず、本件不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求の実質は、自動車の賃貸人と賃借人及びその使用人間の紛争であり、自家用自動車の賃貸人が損害保険契約を締結しているかどうかは、賃借人の知り得るところではなく、ましてや、他の車両とともにフリート特約を結んでいることを含めてどのような損害保険契約を結んでいるかは、知りにくいものと考えられる。これに加えて、賃貸自動車の保険料等は、通常は賃料により賄うべきもので、賃貸人の負担において解決されるものである(乙一〇)ところからすれば、保険料増額分が本件事故と相当因果関係ある損害ということはできない。

仮に、これを肯定するとしても、本件自動車とともにフリート特約の対象となっていた自動車は四〇台であり、その後平成七年七月以降は、四六台となり、平成八年七月以降は五一台となったものであるところ(甲一八~二〇、三一~三三)、本件自動車以外にも事故を発生させた車両の存在した可能性も否定できず(証人正彦は分からないと述べるに留まる。)、また、原告の算定方法は多くの仮定の上に立ったものに留まり(甲一六、三三、証人正彦)、その主張する額の保険料増額分が発生し、これが本件事故と相当因果関係あるものと認めるに至らない。

したがって、原告主張の保険料増額分について、これを本件事故と相当因果関係ある損害として発生したことを認めることはできない。

五  保管料及び移動費 三九万七九九二円

証拠(甲七~一一)及び弁論の全趣旨により認められる。

六  損害合計 七八八万七九九二円

七  損害填補(車両保険金) 六四〇万〇〇〇〇円

八  損害残金 一四八万七九九二円

九  弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円

既に判示の損害額及び本件事案に鑑み、右金額が本件事故と相当因果関係ある弁護士費用と考えられる。

一〇  賠償額 一六八万七九九二円

第四結論

以上のとおりであるから、原告の請求は右損害金とこれから弁護士費用を除いたものについての遅延損害金の限度で理由がある。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 田村洋三)

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